素晴しいタイトルをもつオースティンの傑作 “Sense and Sensibility”が文庫化された。『いつか晴れた日に』という題名の真野明裕訳で読んだ人も多いだろう。冷静で気配りに満ちた優しい姉エリナー(=分別)と、奔放で情熱的な妹マリアン(=多感)が、それぞれに恋をして結婚するまでの、コミカルで楽しく、後味のよい物語。『高慢と偏見』や『エマ』とはまた違った味わいがある。たとえばエリナーは、密かに恋していた相手エドワードが結婚したと思い込んでいたが、それは彼ではなく弟の間違いと聞かされて、うれし泣きする。じっと耐えてきた彼女が舞い上がる最高のシーンだ。その箇所の二つの訳を比べると、違いは文章の切り方くらいで、どちらもとても読みやすい。
「エリナーはもうその場に座っていられなかった。走るようにして部屋を出て、ドアが閉まったとたん、うれしさがこみあげてわっと泣き出した。この涙は永遠に止まらないのではないかとさえ思った」(中野訳)。「エリナはもはやじっと座ってはいられず、走るようにして部屋を出た。ドアが閉まったとたん、堰を切ったように嬉し涙が溢れ出し、もう止まらないのではないかと初めのうち自分では思った」(真野訳)。「Elinor could sit it no longer. She almost ran out of the room, and as soon as the door was closed, burst into tears of joy, which at first she thought would never cease.」(原文)