introduction(描き下ろし)の舞台は茨城県牛久沼周辺。東京から70kmほどか。05年10月15日、高浜という「男性」漫画家が気分転換に車を走らせていて中3らしい少女を拾い、ホテルに連れ込む。結果的に援交の形になり、その後も数回会う。最後は06年3月1日、卒業祝いを買ってやり、別れる。そして彼は、この少女を意識しつつ、寂れた漁村を舞台に「水にまつわる」作品を描こうと思い立つ。タイトルは少女が熱中するTVゲームに登場した言葉から、「凪渡り」。「本を読まぬ娘が/もしかしたらいつか手に取ることもあるかもしれない」(p10)と、彼は思う。
本書所収の8つの短編では、いずれも何らかの状況に縛られて閉塞状況にある人々(主に女たち)が描かれる。表題作では、障害を持ち広い世界に出ることを断念しつつ、外の匂いを微かに味わわせてくれる男との夏だけの関係を続ける女。「水沼ストアー」では田舎町で家業の小さなスーパーを手伝う男が、「ブリブリ」の彼女との結婚を躊躇う中で中学生の少女に心を迷わせる(p81のこの少女の表情が恐ろしい)。最後の「椋鳥」(9コマしかないが)は、小さな希望を宿しているようでもあり、あらかじめ蹉跌が暗示されているようでもある。
作者が、茨城で燻っている援交少女の閉塞状況を念頭において作品を組み立てているのは分かる。ただ、作者はなぜintroductionで、男の視点に立ってこの作品集全体を支えなくてはいけなかったのか。そこがもう一つ、納得しきれない。ただ、高浜の描く女たち男たちの「からだ」の、なんとエロティックなこと。