待望(?)の新訳の文庫化です。そんな人いないとは思いますが、もし「夜の樹」や「遠い声 遠い部屋」なんかしか読んだことがなければ、同じ作者と咄嗟には了解できないかもしれません。この作品には、安易な言葉ではありますが、天才の情念と執念があります。読み進めていくうちに、なにかに手を入れたらいきなり手が抜けなくなったといったような怖さを多々覚え、読了前、後を隔てるなにかが自分のなかに芽生えているのを感じさせられます。「遠い声 遠い部屋」なんかは、自分の心の奥底に潜んでいる原初的な弱さを目の前に突きつけられそうで躊躇ってしまい、読むのに時間を要したのですが、この「冷血」はその長さを差し引いても、新聞に何ページにもわたって掲載された渾身のルポを読むような集中力と時間をこちらに求めてくる、そういう意味で時間のかかる作品でした。ジョージ・プリンプトンの「トルーマン・カポーティ」で一緒に写っている写真を見たせいか、ノーマン・メイラーの「裸者と死者」と似た手触りだともちらっと考えました。
ところで、最近(でもないですが)「百年の孤独」の改訳やこの「冷血」の新訳のように、CDのリマスターさながらに再発されますが、読み直すいいきっかけですね。どこが変わったのかはさっぱりわかりませんが(皮肉じゃないです)。ラルフ・エリスンの「見えない人間」なんかは早川文庫や黒人文学全集を二十年くらい探して結局見つけられなかったので、うれしかったです。