まず言えることは、陸上競技の長距離走を理解していないと興味をもてないことだろう。例えば5000m走で15分を切ることが一体どんな意味があるかわからないといけない。
これは著者が青春の殆どすべてを賭けた長距離走について、どうしても書かざるを得なかった内容である。読者をひきつける為の作為はあまり感じられない。特に試合や練習のタイムが列記されるところなどはそうである。しかし1秒のタイムに一喜一憂した日々を描くには、このような表現しかとれなかったのだろう。
私自身もレベルは低いが、同じような経験を持っている。著者は15分を切れるぞという応援を信じることができずに、ぎりぎり15分というタイムに終わったが、私も15分30秒を切れるぞという応援を信じなかったから15分30秒で終わった。
著者は同じような経験を持つ人にしか理解されないと分かっていたはずだが、それでも書いたという事実は重い。
描かれている箱根駅伝は、内側からしか描けない真実である。また著名な監督であった中村清氏の姿も身近にいないと知りえないものばかりである。
多くの人々が実名で出た本書はノンフィクションとして出版すべき本であったかもしれないが、小説とすることである程度のヴェールをかけて、もし名誉毀損というような事態が起こった場合に備えたのだろうか。
箱根のレギュラーとして走るランナーが猛練習の中でも体重を気にして食事を制限することは始めて知ったし、肉離れをしている選手を棄権させないようなことが陸上の世界であり得たことも衝撃だった。
私にとっては面白い本であった。陸上競技で長距離を目指す人たちには読んでもらいたいと思う。