この独特の世界観。他にはない。蓮丈那智も民俗学も。大学教授なんてもっと理屈っぽい生き物かと思いきや、古い世界のしきたりなど鼻にもかけず、まさに”自由闊達に航海する”。私にとってはとても魅力的なキャラクターなのです。
民俗学を実際に研究されている方が読んだらどう思うかわかりませんが、理屈抜きにおもしろい読み物になっていると思うのですよ。まるでノンフィクションを読んでいるような面白さ。過去のいつかに、こんなことがあったら面白いだろうな、と思わせてくれるんです。それとミステリを絡めて書いてあるんですよ、面白くないわけないでしょう。
これだけの民俗学の蘊蓄をミステリと絡めるには、ものすごい下準備が必要でしょう、その面倒さを感じさせないくらい”さらっと”書いてあるところがまたよろし。いかにも研究しました的に蘊蓄だけを披露されると、小説としての面白みがなくなってしまうと思いますが、そこはあくまでも脇役。本筋はミステリなのであって、那智がどう事件を解決していくか、というところがきちんと描かれているからミステリとして楽しめる作品になっているのです。
今回は教務部の”狐目の男”が活躍(?)する表題作が一番面白いかな。いつものごとく、他シリーズの登場人物が出てくるのもファンとしては嬉しいところです。これだけしかない資料からこんな風に論理を展開してものごとを証明してく民俗学っていうのはなかなか面白い学問だ、と門外漢の私も興味を持ってしまうほど、事件解決への過程が絡繰箱の証明の道そのものをたどっていくような面白さがあり、そこに普段は三國に文句しか言わない狐目の男が絡んでくるものだから、嫌が応にもラストへの期待が高まるじゃありませんか。ここまで来て、この事件の内容がどうこのタイトルとリンクするのか。最後まで読んでやっとわかりました。
もうこのシリーズが読めないのかと思うと本当に残念です。北森作品の中でも、蓮丈那智シリーズが一番好きだったのに。