『UNLOVED』(2002年)、『ありがとう』(2006年)、『接吻』(2008年)と、寡作ながら優れた作品を発表しつづける映画監督・万田邦敏の映画批評本が、満を持して登場した。日本の映画批評史において、映画監督による映画批評という流れは、蓮實重彦のもとで映画論を学んだ黒沢清や、その後輩にあたる青山真治、塩田明彦ら、いわゆる「立教ヌーヴェルヴァーグ」によって確立された。その「立教ヌーヴェルヴァーグ」の立役者のひとりである万田邦敏の批評は、映画監督ならではの視点で書かれた、エンターテインメント性あふれる文章である。本書は、80年代から2009年までのほぼすべての万田の文章が収録されているため、文量も多く読み応えはあるが、決して堅苦しはなく、「批評」というよりも「エッセイ」としての要素が大きいため、無理なく読み進むことができる。
作品評や映画の講義録等では自作についての言及はほとんどないが、青山真治や黒沢清、塩田明彦らとの対談・鼎談のなかでは、自作についての思いが雄弁に語られている。なかでも中原昌也との対談では、中原というすぐれた聞き手を得たことで、どんなインタビュー記事よりも明確に、万田の映画作りに対する姿勢や、8ミリ映画から『接吻』までの変遷を見てとることができるだろう。
また、80年代の蓮實重彦信者を辛辣に描いた「蓮實重彦現象」や、黒沢清の幻の処女作『女子大生・恥ずかしゼミナール』の撮影日誌など、80年代日本映画の記録としても価値ある一冊である。