社会保障-再分配政策-は分かりやすいからこそ、政争の具になりやすい、と文中でも述べているが、この社会保障の諸問題を政治学と経済学のミックスした観点から論じていく、深い思索と鋭い視点に満ちた秀作。
この本が出色なのは、再分配政策をめぐる政策決定過程の普遍的ルールを、冷徹な人間観に基づいて分析していること、が一点目。例えば、「問題設定は既に価値判断を内包していて議論は予定されたところに落ち着く」「政策は力が作るのであって正しさが作るのではない」「時代の常識とも言うべきものが経済が不活性のときに勃興し、政治行動を一定の方向に導く」といった指摘だ。どれもロジカルに提示された仮説であり、説得力がある。
そして、社会保障の「常識の非常識」とも言うべき点を丹念に説き起こしているのが二点目。
危機喚起型の制度改革が有効に働いていない点、国民負担率を論じることの無意味さ、人口構造の変化(高齢化)は1%の経済成長でまかなえる、医療費増は高齢化のためではなく、医療の高密度化と範囲拡大の方が本質的な問題、等々随所に切れ味鋭い指摘を実証的に行い、社会保障の世界での「常識」を新しい視点から転覆させるものだ。
このような指摘を通じて、やはり社会保障(再分配政策)は「本来経済政策の一部門であった」ことを明快に示すし、「時代の常識」に左右される難しい領域であることが改めて焙り出される。厚生労働省はじめ政策担当者が、「自分の見たいものしか見ない」状況に陥らないためにも、味読し、本質の議論を行うための視点を得ていくための格好の素材である。知的興奮に満ちた一冊と言える。