伝記としては永井啓夫の『三遊亭圓朝』(青蛙房)にとどめを刺し、円朝を主人公にした小説といえば、小島政二郎の『円朝』と正岡容の『小説圓朝』は現在でも河出文庫で入手できる。さすがに長谷川幸延の『寄席行灯』は古本屋でも見つけることは難しいかもしれないが、虚実入り交じっているとはいえ、これら様々な作品を通して三遊亭円朝の生涯を追うことはできた。しかし、考証が行き届いていても、これらの小説はいま読むとピンとこないことも確かなのだ。その点で、この『円朝の女』は、これらの「古典」というべき作品と比べても全く引けをとることなく、十分に現代に通用するエンターテイメントになっている。厳密には円朝が主人公ではないのだが、2007年の辻原登『円朝芝居噺 夫婦幽霊』と並び、江戸から明治へと大きく変わっていく日本が描かれた、文句なく面白い時代小説といえる。