著者は,日本経済のさまざまな問題点について独自の視点で解説している.概ねその主張は傾聴に値すると思われる.輸出型製造業の業績回復は「低金利・円安(間接的補助金)」に過ぎないと言う指摘は特に重いが,当たっているのでしょう.しかし,そうしなかったら何もなかったのかもしれないところが日本経済のつらいところ.
税制についてのけったいな議論を税理論に基づいて論理的に反論しているところは特に役に立った.
しかしながら,著者の立場上やむをえないが,立場の論理に過ぎない主張もあると思われるので,読者は私の以下のコメントが妥当かどうか検討しながら読んで欲しい.
(1)p.42-44で,サブプライムローン問題により批判された金融商品の意義を航空機技術が受容される過程を例にして正当化しているが,次のように考えてはどうだろう.
飛行機が墜落すると,乗客は死ぬし,パイロットも死ぬ.
投資信託が暴落すると,乗客は大損するが,パイロットは信託報酬を得る.
この点が本質的問題を生んでいると思う.
(2)航空工学の基礎は簡略すればニュートン力学に尽きるが,金融工学にはそれに対応するものが見当たらない.正規分布は,与えられた確率事象にアプリオリに適用できない.応用を目指す前に基礎理論を確立すべきではないのか?
(3)最終節で比較優位原則の有効性を述べているが,その成立条件についての言及がないので困る.成立しない場合のリスクを皆恐れているのだと思う.
以上,エッセイをまとめた著作なので,細かい議論はできなかったのかもしれない.著者にはより紙面に余裕のある場合以上の言いがかりに事実と論理で反論していただけることを期待している.
最後になるが,国も金融の専門家(そもそもいるのか?)も頼りないので,個人は資産運用をしなけらばならないのです.また,金融工学を学習するより著者の税金に関する著作・著述のほうが資産運用にはるかに役立つことを指摘しておきます.