ポストモダンというのは、ある意味「閉塞」の時代です。
自由な社会が成立し、豊かな生活を享受し、一見すると素晴らしい時代。
でも、本当は何もない時代。
過去もない、未来もない、何も出来ない、どこにも行けない、良いも悪いも分からない。
そういったないないづくしの状況の中で、生きる希望を失わないための思想がポストモダニズムだといえるでしょう。
この本は、まさにそのような希望のための試みでした。
本書が志向しているのは外部、つまり「ここではないどこか」です。閉塞状況を打ち破ってくれるような、「どこか」を目指した思考の軌跡が本書です。
それも安易に「これが外部だ!」と語るのではなく、徹底的に内部を語ることで。内部が自ら音を立てて崩れるまで、内部を突き進んだのがこの『内省と遡行』でした。
それは希望であると同時に、絶望でもあります。何故なら本書が問題としたのは、「ここが外部だ!と言った瞬間、そこはたちどころ内部になってしまう」という、まさにそのことだったからです。本書で幾度となく登場する「自己言及性」のパラドックスというのがこれです。
だからこそ、本書は内部にこだわるのです。「ここ」が「ここ」でなくなるまで、徹底して「ここ」について語る。
それは敗北することを運命づけられた試みです。そしてそうであるが故に、この本は読まれ、讃えられるべきだと思います。
『構造の力』と並んで、二十世紀後半の日本における思想的達成といえる書物でしょう。