著者はギリガンのケアの倫理にだいぶ共鳴しているようで、ロールズマニアと自称していた割りにはコミュニタリアニズムなどにも好意的に見える。教育においては佐藤氏の「学びの共同体」を好意的に紹介しているが、リベラルである宮台氏などは真っ向からこの構想を批判、というか罵倒していた事が思い出される。さらには死の自己決定に関しては死の共同性を理由に自己決定を否定する小松氏を擁護し、死の自己決定論にはついていけないと発言するなど、安易にリベラルとは言いがたい論も目立つ。
他の特徴としては、非常に他人の本や論の紹介引用が多いという点。また同シリーズの井上氏の自由論などに比べて、その多くが日本人からの引用である。誰に好意的かという事によって著者の立場を知る事は出来るものの著者独自の言葉で思想が語られるかというと、かなり控えめであるのでそういう面白さは期待できない。こういう問題についてこういう人がこう言ってます。いいと思います。あ、こういう意見もあってこれもいいなと思います。おしまい。みたいな具合の講義が大半であり、何か物足りない感が残る。引用の仕方もどこかごちゃごちゃしていて読みにくい。
本書の引用っぷりを引用する事は字数的な問題で難しいが、著者本人がそういった本書の特徴を認めている箇所は引用できる。「引用がいささか多すぎた」「最後まで紹介役に徹することにしました」(92頁)「お前は自分の頭で考えていないと言われれば、そうだと認めるしかありません」(140頁)…このように本書はそもそも著者の方針からして他人の考えの紹介に徹している。その事はよく踏まえて、それでもいいという場合にのみ手にとると良いだろう。だが多様な主張の解説書としてだけ見るにしても、優れた解説書と言うには広く浅くという具合が過ぎるとも思う。(講義本体がたった100頁で終る事からもその解説の必然的浅さは伺えるかと思う)擬似講義を想定した事からくる無駄な自己言及や冗談も解説書としてだけ見る場合はマイナス点になってしまう。残念ながら哲学塾シリーズ中では今のところ一番退屈だった。
参考までに各講義で引用される論者は以下のよう。
共生の両義性:竹内敏晴、井上達夫、花崎皋平
孤独と共生:石原吉郎
ケアと共生:ギリガン
教育と共生:エリクソン、佐藤学、浜田寿美男、宮沢賢治
臨床と共生:松田道雄、小松美彦、立岩真也、池川清子
エコロジーと共生:コモナー、マーチャント、岸由二、森崎和江、ミース