世界的な議論を呼び起こした本書に対し、いまだ日本語翻訳本のレビューがないのは奇妙なので、一筆書いておこう。この書は、政府役人や貴族と異なる私的市民がコミュニケーションを通して構築する公共性が、18世紀のヨーロッパでどのように誕生・発展し、19世紀以降の行政権力と貨幣経済の発展によって、どのように閉塞したかを、歴史社会学的に解明した画期的な古典である。1962年の初版では、「有産階級的な市民(ブルジョア)社会」が公共性を担うアクターとされていたのに対し、東欧革命直後の1990年に再版された序文では、それとは異なる「非経済的な市民社会(Zivilgesellschaft)」がこれからの社会の公共性を担う重要なアクターとして提唱されている。こうしたハーバーマスの公共性論に対して、我が国では、排除というエレメントを軽視しているという批判(斎藤純一など)やヨーロッパ中心的という批判(山脇直司など)があるが、国家や政府の公式(official)とは異なる市民的公共を考える上で、本書は必読書と言ってよいであろう。