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八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)
 
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八甲田山死の彷徨 (新潮文庫) (文庫)

新田 次郎 (著)
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5つ星のうち 5.0 極限状態にある組織と人間, 2007/3/31
By @poor work - レビューをすべて見る
(TOP 1000 REVIEWER)   
長年にわたる気象庁勤務と、登山家としての経験を持つ著者の新田次郎氏。
「強力伝」「富士山頂」など、山と人間の極限のせめぎあいを数多く描いてきたその筆力は、
この作品でもいかんなく発揮されている。

明治35年、目前に迫った日露戦争。ロシアの陸奥湾封鎖の想定のもと、八甲田山雪中行軍は行われた。
咆哮する風の音、重く沈む灰色の空と雪煙、骨まで凍らすような寒気。
小説を読み進めるうちに、第三十一聯隊および五聯隊の隊士たちとともに、
読者も白魔の世界に引きずり込まれるかのような迫力がある。
雪中の死の彷徨、あるものは発狂し、あるものは眠るように倒れ、追い詰められてゆく第五聯隊の極限の状況が、
背筋にジンと来るような緊張感を持って迫ってくる。

事実を元にした作品であるから、全体に記録文学的な筆致で構成されているが、完全な実録ではないことは知っておきたい。
士官の名は実名を窺わせながらも変更されているし、所々潤色も見られる。
実名と仮名が併記される場面などでは、やや読者を混乱させる面もある。

しかし新田氏の本作における目的は、事件を完全なドキュメンタリーに再現することではなかったはずだ。
本作で新田氏は、極限状態の中にある「組織」というものに注目している。
すなわち三十一聯隊と五聯隊の明暗や、死後も失われなかった序列である。
階級の差はそのまま死傷率の差、または祭祀料の差という、冷徹なまでの数字になって表れていた。
国家とは、組織とは、軍とは、戦争とは、人間とは、命とは何か。
この八甲田山死の彷徨を通じて、新田氏は読者に問いかけている。
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16 人中、13人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 人と組織と自然, 2005/6/3
明治陸軍の山岳遭難事件を描いた有名小説。非常に読みやすい。
自然と人間、組織、指揮系統などなど、読み手によってはテーマの感じ方が変わる作品。

この八甲田山遭難事件は実際に起こったことだが、本書に登場する人物たちはすべて仮名になっている。少し調べれば実名などもすぐにわかるものだが、あくまでこれは小説として書かれており、完全なノンフィクションではない。
この本が出版されたのは昭和46年、前年の45年に遭難生き残り最後の一人が91歳で亡くなったという。遺族も大勢いるわけであり、なかなか堂々と実名では扱いにくいと著者も取材ノートに書いている。
実名では都合が悪いというのは、この事件が指揮系統や責任問題という側面に照明を当てねばならないからである。そしてそれは現代的な組織の問題にも連なってくるわけで、大衆に多く読まれた背景もそういうところにあるといえる。

しかし最後まで読み進めてゆくと、やはり組織の問題である前に、人間と自然というもののかかわりに思いを馳せないわけにはいかなかった。
近代以降人々は自然を機械力に任せて克服する姿勢へと傾いていった。しかし大地に根を下ろし、その恩恵に頼って生きている現実は昔も今も根源的には変わっていない。
その点を無視して傲慢に克服しようとする人間の業は、こういう局地的な事件からも感じ取ることが出来るはずである。

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6 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0 中盤から一気に読破しました, 2006/8/12
極寒の地で,睡眠不足+食料不足の状態。人間は極限状態に陥るとこういう行動に走るのか,という描写がセンセーショナル。仕事などで,過去に何らかの「修羅場」を経験したことのある人ならば,その片鱗だけ,リアルに感じられるかも。
弘前からの徳島隊の章はとにかく淡々と。しかるべき準備と,各人へのささやかな研究テーマ。それはまるで移動する大学の研究室。ところが,徳島隊のメンバが,日程に遅れを取る神田隊を気にするあたりからトーンは一変。
青森からの神田隊の章は地獄絵そのもの。内容は山岳遭難小説であるにもかかわらず,身につまされるはなぜか。上層部の無知と干渉,ご乱心。これがすべてを狂わせる過程は,大企業の病巣そのもの。リーダー研修の題材として使われるというのも納得の行く話です。
後半になると,小説ともドキュメンタリーともつかない文体がしばしば登場し,作者自身の感想で結び。この形式の是非は意見が分かれるでしょうが,新田氏も取材を通して,驚愕した様子は伝わってきます。
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投稿日: 2007/2/18 投稿者: くにたち蟄居日記

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