著者が雑誌Numberに掲載した短いエッセー9作と書き下ろしの2作(清原の引退とWBCでの日本の優勝)。このうち野茂英雄に関するものが4作で全体の3分の1を占めます。野茂のものは野茂自身の話より野茂の生き様を見ることが一般人(日本人の在米企業家からアメリカ人の一ファンまで)にいかに大きく影響を与えたのかを、野茂の渡米後数年を中心に語られています。他の作品は、高校野球、オリンピック、日本シリーズと内容は多岐にわたり、取材相手は地方の無名の野球人、一流選手、一般市民と多彩ですが、調査の対象が誰であるかに関わらず、入念な取材が行われていることがわかり、記事の信頼性と好感度を上げています。野球には投手、打者、走者、野手の誰一人ミスをしないのに結果に明暗がわかれてしまうことがあるということが書かれており、野球が人生の縮図として人の目には映ることのあることがわかります。野茂はマウンド上の姿勢のみならず、全米からベネズエラまで転戦する生き様で、似たような苦境に喘ぐ人々の共感を得てきました。この本では在米の日本人で野茂とは一面識もないが、野茂の活躍に恩恵を受け、“機会があれば是非、その節はありがとうございましたと礼を言いたい”という人物が登場します。これは在米で日々生き残りに闘っている多くの日本人をまさに代表する意見で、野茂が過去10年以上にわたり精神的支柱としてアメリカ国内の日本人社会で果たしてきたヒーロー(英雄)としての役割を如実に示しています。