内容紹介
「仲良くすれば、勝てるのか?」
昭和25年に2リーグに分立したプロ野球の黎明期に誕生した広島カープ。その初代エースとなった長谷川良平は、弱体球団を解散の危機から救った「ちいさな大投手」だった。
その自負と強烈な個性ゆえに、かれの生涯記録197勝208敗の記録には、かくされた悲喜こもごもの人間ドラマがあった。
プロ野球に熱気がたぎっていた時代の、いまだ語られることのなかった長谷川良平をめぐる選手群像。
巻末に「対戦相手球場別全勝敗」「通算成績」「年譜」
レビュー
スポーツ報知 2007/08/12 ブックスクランブル身長167センチ。小さな体でプロ野球・広島カープの草創期を支えた投手、長谷川良平。長谷川さんは昨年7月に鬼籍へと旅立った(享年76歳)が、一周忌となる7月29日、広島を拠点に文筆活動を続けている堀治喜さん(54)が“小さな大投手”の野球一徹人生を「全身野球魂」(文工舎刊、1600円)と題して出版した。野球人のなかにあって、異彩を放っていた男を熱くつづっている。
野球人としては異質な存在。知遇を得て、長谷川良平と会うたびに、その思いを強めた。
「この人は野球界に間違って入ってしまったのでは、という。でも、実績は圧倒的。それだけに、どうやってこの世界へ入ってきたんだろう、という興味を覚えたんです」
現役14年間(1950?63年)で621試合に登板し、197勝208敗。完投213。完封38。奪三振1564。防御率は2・65。
「成績を洗い直したとき、心の中に立ち上がってくるものがすごかった」。野球人らしくないのに、すごい野球人。その生い立ちも「のぞいてみたくなり」執筆を決意。長谷川に感じた異質…野球人としての違和感を追究する旅でもあった。
取材を始めたのは5年ほど前。本人からも何度か話を聞いたが、押し寄せる病魔のせいか「設問に対する答えも返ってこない状態でした」。最後の取材から1年半、本にすることをあきらめていた06年7月29日、長谷川良平逝去の報に触れ、その悲報に「書け!」と背中を押された。「選手は記録を残すだけでなく、ある種エピソード的にも一つの物語になって、初めてその選手の人生が完結するのでは」という思いもあった。
長谷川は1930年生まれ。愛知・半田商工(旧制中学)から2年間のノンプロ生活を経てカープに入団。この間、中学時代は上手投げだった投球フォームを変則のサイドスローに変えた。フォームも異質だった。
5章に分けられた中でもっとも興味深いのは〈208敗にまつわる逸話〉。「200勝して当然だった」投手の、208敗の中身を精査し、疑問を抱き、核心に迫っていく。巻末に記載された著者の労作「長谷川良平全成績」と見比べながら読むと、興がのる。すご腕の若造への反発か、勝利を妨げた選手がいたことを、「もう、時効ですから…」とOBの証言も得ながら、明らかにしている。そんな野球が“悟り”となり、野球人らしくない野球人を形成したのだろうか?そんな読後感に至った。
「長谷川さんを星に例えたら、北斗七星とかではなく、ちょっと離れて本筋とは違うところで異彩を放つ星でしたね。この本が供養になってくれればと思います」。小さな大投手に対する堀さんからの鎮魂歌でもある。