ほんとうは原文を読めばよいのでしょうが、いかんせん注釈首っ引きでは、
「小説」を読む高揚感は得られない。かといって、現在喧伝されている、
現存有名作家たちの「現代語訳」「個人訳」には拒絶反応があって入っていけない。
もちろん「あらすじ」本では物足りない。
……そんな方にぜったいお薦めです。
自分は、秋風立ってふと目についた「野分」という言葉に、
「そんな巻が『源氏』にあったな」
と思って、以前買っておいて積んだままになったこの与謝野版3冊を取り出した。
これが面白い。とにかく読める(リーダビリティというんでしょうか)。
何より引き締まった文体が魅力。
「野分」の前後を読むうちに、改めて全巻通読してしまった。
20年以上昔、書評に健筆をふるっていた朝日新聞出身の評論家、
百目鬼恭三郎(どうめき・きょうざぶろう )がこの晶子訳源氏を絶賛していたが、
最近では稀代の本読み、松岡正剛が次のように言っています。
〈ぼくとしては、日本で最初に『源氏物語』の現代語訳にとりくんで、
かつその後のどんな現代語訳をも凌駕している『与謝野晶子訳・源氏物語』を
読んでもらいたいというのが、本音なのである。晶子の源氏にくらべれば、
円地源氏も瀬戸内源氏もお話にならない。ぼくは吉本隆明の古典の読み方には
いささか文句があるのだが、吉本が「源氏は晶子のものが群を抜いている」
と評価していることには一目おいている。〉
独特なのは、晶子の男女観がバランスよく、明治11年生まれ、昭和10年代の刊行、
ということもあって、充分に現代日本語でありながら、
ほどよい「古格」(古風ではなく)が、全体から感じられること。
過不足なくしつらえられた(伝統を継承しつつも、実際の住まいとしても心地よい)
日本建築に踏み込んだように、いっしゅんの緊張感の後、
忘れがたい、ありがたい体験が得られます。
三冊という分量も手ごろ。