本書(鎌田正明『全壊判定』朝日新聞出版、2009年4月30日発行)はマンション問題を題材とした小説である。著者は環境・住宅問題を中心に扱ってきたジャーナリストで、本書はデビュー作である。
震度5の地震で全壊判定された東京のマンションを舞台として、マンション購入が怖くなるようなマンション問題をリアルに描いている。無責任な建設・不動産業者、身勝手なマンション住民、他人事の行政、暴走する管理組合などマンション問題が濃縮されている。
仲介業者は「組合関係は暇なお年寄りがやってくれるので、負担はかかりません」と説明したが、主人公・志月香織は購入早々、管理組合理事長を引き受ける羽目になる(45頁)。口からでまかせの営業トークでマンションが販売される実態を描いている。
建設業者の東日建設は地盤が悪いと責任逃れをする(85頁)。それでいながら、マンション住民には建て替えを奨める。ふざけたことに「ご縁のある現場ですから、どこよりも最優先でやらせていただきます」と被害者感情を逆撫でする発言を平然とする(89頁)。売ったら売りっぱなしで責任をとらないどころか、被災住民から再度工事を受注して搾り取ろうとする。
このような業者の責任逃れが許されている点がマンション問題を深刻にしている原因である。本来ならば震度5で全壊になるようなマンションを建てた業者や埋立地の危険性を説明せずに販売した業者に矛先が向かう筈である。しかし、業者は逃げ得で安穏としており、マンション住民同士で建て替え派と補修派に分かれて陰湿な争いが繰り広げられるところが悲劇である。
どのような問題があっても購入者の自己責任で対応しなければならないならば、分譲マンションは資産ではなく、足かせになる。本書が以下のように指摘するとおりである。「賃貸住宅であったら、どれだけ建物が破壊されようと、さっさと別のマンションに引っ越して、新たな生活を始められる。……だが、傷ついたマンションからは、逃れることができない。財産という人質をとられたようなものだ」(126頁)。分譲マンション購入が怖いものであることを実感した。是非とも分譲マンションの購入検討者に一読して欲しい。
最後に公正のために記者のスタンスを説明する。記者は大手不動産会社から不利益事実(隣地建て替え)を隠して新築マンションをだまし売りされ、裁判で売買代金を取り戻した経験がある(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』参照)。本書によって売買契約取り消しという自らの選択の正しさを再認識するとともに、本書以前からマンション購入にネガティブなイメージがあったことを付言する。