著者の、まさに全身を使った言葉が発せられているような、とても素敵なエッセイ集。ずっと世界を旅しつづけ、その土地その山その海でしかあじわえないであろう大切な体験が軽やかな文章でつづられ、しかもそのひとつひとつの短めの文章に、この世界で誠実に生きるための身にしみる知恵がこめられている。著者が旅の中で通過した独自の感覚を追体験しながら、自分ではまず挑戦できないであろうその身体の使い方の途方もなさに、驚嘆してばかりであった。
幼いころの冒険や、あるいは高校時代のなつかしい旅の思い出も、人間の肉体の限界に挑むような、死と隣り合わせの大いなる探求の記録も、ほとんど同じトーンでたんたんと述べれられているのが、とてもいいな、と思う。著者の身体にこめられたすべての旅の経験は、どれもみな等しく貴重なものとして記憶されているのだろう。その記憶の宝箱は、人類がこれまで自然と共生しながらつくりあげてきた歴史の奥深さに気を向けさせてくれるに十分である。