「日頃抱えている問題は、多くの場合、一つひとつの個別の状況や現象といった要素の中にあるのではなく、要素と要素の間や、さまざまな要素の組み合わせの中にある。……問題の解決には、多様な視点から検討し、全体(システム)という視点からの方法論に根ざしていく必要がある」(28〜29p)
ご高説ごもっともですが、問題点が多い入門書であり、厳しい評価をせざるを得ません。
【問題点1】”システム思考”のツールは”ループ図”だけではない
本書で〈システム思考〉と呼ばれている方法論は、正確には”システム・ダイナミクス”(以下SD)と呼び、内容的には
『システム・シンキング入門』(日経文庫)で以前から知られているものです。”システム思考”は、一般に,在庫配分などのオペレーションズ・リサーチ[1]や、 P.ChecklandのSoft System Methodology[2]を含みます。
著者枝廣氏はSDの解説書
『システム思考―複雑な問題の解決技法』(BEST SOLUTION)の訳者であり、この邦題を“システム思考”とすることに原著者からお墨付きが出ていることが問題の源でしょうが、入門書である以上、SDは方法論の一つであることを明記すべきです。
【問題点2】方法論と哲学の混同
ツールとしての”システム思考”(SD)と、思考方式としての”システム思考”(哲学)を区別していません。
実践で混乱の元になりかねない誤謬ですが、これは問題点1が原因です。
【問題点3】概念の混同
1.木を見て森を見ず=演繹的思考
2.森を見て木を見ず=帰納的思考
3.木を見て森も見る=システム思考
本書では1を”分析的思考”として退け、2と3を同一の〈システム思考〉として推奨していますが、個々の要素に立ち戻ることなしに、問題対象の全体理解などありえません。
*1 代表書に、『
オペレーションズ・リサーチ読本』
*2 代表書に、『
ソフト・システムズ方法論』
※*2に関しては、評者は訳者の弟子であり第三者ではないので、インサイダーレコメンドになることをお断りしておく。