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「歯が痛ければ、理髪師や旅回りの歯抜き屋に抜いてもらい、歯抜けが気になれば、死者から抜き取った歯を、隣の歯に針金で結わえておけばいい」。それが当たり前の時代があった。筆者はそんな歯科治療暗黒時代に人類が別れを告げるまでを、エリザベス1世、ワシントン、源頼朝、本居宣長、杉田玄白といった偉人たちのエピソード、現存する入れ歯の写真資料などを交えつつ振り返り、解説していく。
入れ歯にはなぜか滑稽(こっけい)さがつきまとう。ほかの人工臓器が外れたからといって吹き出す人はいまいが、コントなどでは入れ歯がズレただけで笑いが起きる。老いれば誰もが体験する不具合だからこそ笑えるのだろう。だが200年以上も前の入れ歯となれば笑いの質も変わってくる。
総入れ歯はその誕生当初、容貌を保つための「詰め物」にすぎず、まだ「噛む」機能は持ち合わせていなかった。バネの力で入れ歯を上顎と下顎に押しつけて固定するという乱暴な作りで、歯肉は傷つけられるし、上唇は押し上げられ、油断すると入れ歯が飛び出してしまうので、使用者は歯を食いしばり続けなければならなかった。装身具というより拷問具とよべるような代物だったのである。
抜歯も19世紀までは麻酔無し。ペンチや釘抜きのような道具を使ったそのエピソード「患者の悲鳴をドラムやラッパの音でかき消した」などは、笑いを呼ぶかもしれないが、おぞましい、ザラっとした後味が残るだろう。その意味で本書は、「21世紀の歯医者嫌い」には、やや刺激が強すぎるかもしれない。(中山来太郎)
出版社/著者からの内容紹介
ワシントンが大統領三選を固辞したのは、あわぬ入れ歯に苦しんでいたからだ(!?)──興味深いエピソードでたどる義歯五千年の進化
内容(「BOOK」データベースより)
歯を失うことは、食べるのに不自由なだけではなく、いつまでも威厳や容貌を保ちたいリーダーや女性たちにとっては、まさに人生の一大事であった。しかし、悲しいかな、なくした歯は人工的にしか補えない…。五千年前、「入れ歯らしいもの」が作られてから、近代科学に基づく「噛める入れ歯」が登場するまでの歴史を、興味深いエピソードで綴る。併せて、現代の義歯製作の実際、未来の入れ歯の展望など、長寿社会に益々必要となる知識が満載。