児童虐待に関して,現役の児童相談所職員が書き下ろした最新の新書本。
児童虐待やその対応の実態を手際よく紹介しながらも,本書の力点は児童虐待防止にまつわる法制度の検証と新たな提言に置かれている。
その意味で,児童虐待そのものに関する概説書として手に取る人には,制度面,実務面についての基礎知識から最先端の問題点まで一気に提示されるため,読むのに骨が折れるかも知れない。
しかし,たとえば,児童虐待としつけの違いといった素朴な疑問について考えるにも,児童虐待防止法における「定義」規定の内容と同時に,その法改正をも押さえておく必要がある。
また,緊急一時保護や立入調査についても,それによって保護されるべき被虐待児童の利益と,通学を中断せざるを得ないとかプライバシーを暴かれるといった児童・保護者側の不利益に踏み込んで検証することは,虐待対応の現場では常に現実の問題であるが,この点を踏まえなければ,これらの制度(判断のあり方)について司法(家庭裁判所)の関与を論じることもできないのである。
著者は,児童相談所という行政機関に身を置きながら,一時保護や立入調査の手続を適正化するために司法(家裁)が関与する必要性を訴えているが,それを阻む現状として,適時適切に家裁に対して司法手続を行うだけの体制が児童相談所にはなく,同時に,適時適切に児相の判断の当否を審査しうるだけの体制が家庭裁判所にもない,という認識をお持ちである。
あるべき制度を支えうる体制の有無に関するこうした現状を踏まえることで,初めて,児童虐待防止制度の改善に必要なヒト・モノ・カネの配置を議論することができる。
この点で,本書は,広く児童虐待問題に関心のある方だけではなく,虐待問題に一定の関わりを持っている方にも,あるべき制度を考える材料として,じっくりとお読みいただきたい一冊である。