「歩く人」は、92年に講談社から単行本として発売、98年に文庫化された作品で、原作はなく谷口ジローのオリジナル。
当時、1話完結方式の17作の連作で構成されていたが、今回の新装・復刻にあたり、03年に発表された1作を加え全18話に再構成されるとともに、次の単行本未収録作が収められた。
・サスケとジロー(94年発表のエッセイに大幅な加筆をした作品。飼い犬と自身のこと等を綴ったエッセイ)
・夢のつづき95年発表。夏の空(06年発表)
・月の夜(06年発表)
・彼方から優しき声が聞こえる(01年発表)
《歩くひと》
郊外の借家に妻と引っ越してきた主人公。年齢は40歳くらいで職業はサラリーマンか。子供はいない。主人公はこの町を歩く。空き地では飛行機を飛ばす子供たちを眺めたり、犬を散歩させたり、図書館に行ったり、深夜仕事帰りに酔っ払ったままビルの屋上に上がったり、公園に行ったりといろいろな所へ歩いていく。
そして、そこで起きたちょっとした出来事が描かれるのだが、どの作品にも家並みとともに必ずと言っていいほど木々や川、雪や雨の自然が描かれている。それも主人公の歩く速度にあわせてゆったりと描かれている。
そう感じられるのは必要最小限のスクリーントーンやベタ(黒)しか使わず柔らかい線で白っぽい風景を描き出しているからであろう。
この作品にはセリフも擬音も殆どないのだが、人物の動きや表情あるいは背景だけで全てが表現され尽くされている。これができるマンガ家はなかなかいない。というか、殆んどいないのではないか。
ここ最近、多くの谷口ジロー作品が文庫版ではなく単行本の新装版として復刻されている。この単行本での復刻が非常に嬉しい。その中でも、この光文社の「コミック叢書SIGNAL」の値段は群を抜いているのだが、谷口ジローの漫画にはその値段に相応しい価値がある。