デンマークの監督・トマス・ヴィンターベアによる最新作。アルコール依存症の母親からの虐待、幼い弟との死別を経験した兄弟のその
後の生き様を描いた作品。日本では宣伝文句に金子みすゞの詩「明るいほうへ」を用いたことでも話題となった。
兄ニックは見た目は剛強だが、精神不安定な元恋人の兄・イヴァンの世話を焼く等心根は優しい男。しかし自らの自暴自棄な行動が彼を
追い詰める。対し死別した妻との間に残した息子を育て上げる薬物中毒の弟。生活はカツカツでその日食べるものもままならない。本作
はニック兄弟と弟の息子・マーティン3人の行末が焦点となる。
まず映像が印象に残る。鮮度を落とした暗めでシャープな映像はデンマークの厳しい気候、兄弟の荒れた生き様やその象徴である刹那
的な性描写・流れる血のドス黒い色・血色の失せた白い顔等を強烈に伝える。また作品の運びが独特。母親の葬儀を起点とし、その後を
兄弟同時ではなく各々に焦点を当て順番に描き分ける。2人の時系列を結びつけるサイン(電話・TV番組の台詞)が随所に置かれること
で、次第に2人の物語が繋がりを見せる創りとなっている。
描かれるのはデンマークでも底辺層の暮らし。デンマークというと福祉国家の象徴として貧富の差無く一生安心という単純なイメージを抱
いていたが、本作の描写はそれとは大きくかけ離れたものだ。ソーシャルワーカーから療育権を第三者に預け生活保護を受ける様勧めら
れるが、息子だけが生きがいだと拒絶する弟の姿からは、当事者が求めない限り社会も手を差しのべるのは難しい福祉の限界を感じる。
邦題は「光のほうへ」となっているが、作中で描かれる兄弟の生き方は、敢えて光の方向から背を向けているかの様で実に痛々しい。彼ら
には何度か生き方を修正する機会が与えられるが、逆に兄は不必要に罪を背負い、弟はますます薬漬けに陥っていく。彼らの心情・行動
全てを理解することは正直難しいが、幼少期に受けたトラウマと罪の意識が彼らを閉じ込めてしまうのかもしれない。
そして長く離れて生きてきた兄弟2人の間にも一番肝心なことは話されない。彼らがある場所で対峙するシーンはそれを象徴しており悲しく
ももどかしい。それだけに物語の最後、やっとのことで見える光への歩み出しは非常に掛け替えなく感動的である。
地味な装いだがずっしりとした重みと観応えを感じる一作、一見の価値はある。