数年前と思うが或る交通手段で移動中に偶々このCDを聞き、後日期待を持ちながら購入した。音楽好きな家族に聴いてもらうと、全く歓迎されなかった。私は酷い屈辱感を味わい、このCDは我が家の隅に追いやられてしまった。それから久しく聴くこともなかったが、久しぶりにCDを整理していて、このCDを発見した。聞き直してみた結果、私には、このCDがやはり単調でなく、寧ろ未だなお新鮮に聴こえる。バックグラウンドミュージックという分類が適しているようにも思えるが、全くそうとだけも言えない。このCDにはそれらとは違う、何か感情に訴えてくるものもあるからだ。そう郷愁感とでも言えるだろうか。
作曲家兼演奏者のルドヴィコ・エイナウディ氏は、ジャケットに「本作に寄せて」と題して寄稿している。その一部を引用しよう。「スタジオで一人きりの創作活動ばかりしている仕事が非常に概念的だと思うようになり、隔たりを感じました。自分と音楽、そして聴いてくれる人との間に、もっとダイレクトな関係を持たなくてはと思ったんです。自分がやっていることの意味を自分で確かめて、オーディエンスとのコミュニケーションを深める糸口を見つけ、そして、ライブ演奏でしか生まれることのない魔法と感情の渦の真ん中に入ってみる必要があったのです。コンサートをするようになったのはだいたいこんな理由からでした。いわば自分で作った歌を歌う歌手の心境ですね。」
音楽ジャーナリストの片桐卓也氏はジャケットに書いた解説で、ルドヴィコ・エイナウディ氏の音楽を次のように評している。ここに引用しよう。「エイナウディの音楽は、内なる光を持っていて、映画の1シーンに独特の温もりを与える。非常にシンプルで、聞きやすい音楽であるにも関わらず、無機的な感じはしない。登場人物、映画で描かれるその人物の内面を示すかのような音楽なのだ。かと言って叙情的過ぎないクールさも持つ。それがエイナウディの音楽の独特の魅力だ。」
ジャケットの解説によると、このアルバムはライブ・パフォーマンスを収録したもので、録音場所はイタリア・ミラノのアルチンボルディ劇場。2003年3月3日、自分自身の作品をソロ・ピアノで演奏したものである。曲目は基本的に2部構成で、前半はアフリカ、マリの文化との出会いから生まれた作品集からの選曲、そして後半はこれまでの映画音楽などを中心とした作品を集めている。ルドヴィコ・エイナウディ氏は、1955年北イタリアのトリノに生まれ、ミラノ音楽院で学び、ルチャーノ・ベリオ(1925年〜2003年、イタリアの現代音楽の巨匠のひとり)に師事した。
私は、前半の作品集により惹かれる。「2.ふたつの川」、「3.もう一つの人生」、「4.夜明けの星」、「8.こんな素敵な夜に」が個人的には好みである。特に、「4.夜明けの星」を聞いていると、至極郷愁感を深める。