賢治文学研究に協力を惜しまず、賢治の最大の理解者だった9歳年下の実弟のエッセイ集。
家族にしかわからない創作の裏話だけでなく、難解と言われる作品には明快な解説(「『春と修羅』への独白」等)も施され、農学者の一面も詳しく紹介されている(『肥料設計と花壇設計』等)。また26歳の賢治が爆発的に生みだした作品の詰められた「兄のトランク」など、端正で格調高い文章により、等身大の賢治が綴られていく。
「焼け残った教材図絵について」には1945年8月10日の花巻空襲の際、遺品である賢治作品を命をかけて守った様子が生々しく描写される。だからこそ今、賢治の大量の作品を読めるのだ。
そして「兄賢治の生涯」には、「何とも言えないほど哀しいものを内に持っていた」「前生から持って生まれた旅僧」のような兄への敬愛と慈悲があふれているが、宗教だけでなく賢治の虚弱体質もまた、作品に影響を与えていたのだと気づかされた。弱く小さな者に注がれていた温かい視線の秘密を、また一つ知ったような気持ちになった。