原子番号1番の水素から109番のマイトネリウムまでの全ての元素について、多彩なエピソードとともに、その性質・利用・自然界の中で果たす役割などを解説した1冊。1982年に同じ岩波ジュニア新書から出た旧版は、私自身が科学への道を選んだきっかけの一つとして個人的にも思い入れが深い。類書は他にもあるが、本書で特筆すべきは、日常生活と直結した身近な話題から科学と人間社会との関係にまで深く踏み込んだ著者の視野の広さ・見識の高さである。時には文学や芸術の中での表現。時には知的な発見物語。一方で公害病や核問題といった重いテーマを扱った部分も多い。
本書を思い出したのは、東北関東大震災時、福島第1原発の放射能漏れの中でだった。放射性ヨウ素やセシウム・ストロンチウムの話。燃料棒のジルコニウムが高温下で水と反応して発生した水素の爆発。あの事故の経緯を理解するために必要なほぼ全ての化学的知識が、初心者にも分かりやすい平易な言葉で余すところなく語られていたことに改めて驚かされる。
そして、著者・高木仁三郎が一生をかけて訴え続けたことが社会全体の、せめてメディア関係者の一般常識となっていたなら、1月経った現在も未だに収束していない事故の間、科学知識ゼロのネットメディアやブロガーが受け売りで垂れ流すとんちんかんな記事やコメント(「半減期」の意味くらい理解して書いてほしい)、それまで原子力への批判や懸念に嘲笑や罵声を浴びせて安全神話を煽り続けたマスコミ・文化人・政治家の「危機管理がなっていない」「この時世に○○はけしからん」「ニュースに使える発表がない」(なら口だけ開けて餌を待たずに自力で取材すべきでは?)の無反省なお喋りより、もっと有益で中身のある議論ができたはず、と思うのである。
一般向け科学読み物の古典として位置づけられるべき1冊だろう。