映画の『13階段』をみて、
本書の著者の坂本氏がそのアドバイザーを務めたというので、
手にとってみた。
坂本氏は死刑執行に実際に携わったことのある元刑務官である。
死刑の是非を問う議論は世にかまびすしいが、死刑の当事者は限られている。
犯罪被害者の家族、死刑囚、死刑囚の家族、そして忘れがちであるが、
死刑を実際に執行する公務員、すなわち刑務官である。
本書のいちばんの特色は、頭のなかの理屈ではなく、
目の前の現実として死刑を受け止めなければならない
当事者たちの視点から書かれている点である。
クリスマスに死刑執行を命令された刑務官の気持ち、
まさに死刑を執行される死刑囚の気持ち、
当事者ではないが、死刑反対運動に巻き込まれて、
つらい思いをする刑務官の家族の気持ちなどを
ていねいに描いている。
だからといって坂本氏は単純に死刑反対、というのではない。
一家4人を惨殺して死刑判決をうけながら、
反省の色も見せず「自分も国に殺される被害者だ」と嘯く死刑囚や
精神異常を装って死刑から上手に逃れてみせる卑劣な犯罪者の様子は
読むものに心底、怒りを感じさせずにはおかない。
死刑制度の当事者になるという経験は、世にまれである。
ほとんどの人は、死刑を身近に感じることなく、平穏に一生を終える。
だから、死刑是非論はどうしても論理先行、理念先行になりがちだが、
本書はそこに「当事者」という名の一石を投じる。
社会制度を議論するのに、当事者でなければ資格がないとはいわないが、
しかし、正義や理念、理想だけが先行する議論はどこか空疎である。
その意味で、死刑の当事者、死刑の現実をこれでもかと書き並べた本書は、
議論としてのまとまりには欠けるものの、いわくいいがたい何ものかを残す。
良書とも名著とも少し違う、
しかし、読んでおくべき本のひとつであることは
おそらく間違いない。