何気なく読んでみたら、素晴らしい作品ばかりなので驚いてしまった。
それぞれのタイトルからソソられるものはない。あまりピンとこない。しかし、これが読んでみると唸らされた。表題作はもう付き合って長いと思われる男女が電話で会話するだけの話である。男の主観で描かれるのだが、とりとめのない会話の中で男なら誰もがたどったことのある思考の過程が膝を叩いて喜んでしまうくらい楽しく描いてある。
以降の作品はすべてどことなく不気味で不安な作品ばかりだ。ミステリ色が濃い。「西洋風林檎ワイン煮」は、奇妙な味のホラーだ。女が鍋の中で煮込んでいるのは何なのか、気になって仕方がない。
そして、そして本書の中で一番気に入ったのが「ポール・ニザンを残して」。コレ読んでびっくりしてしまった。良質のミステリではないか。このラストの切れ味の良さはどうだろう。心地よいショックだ。この一作を読むためだけでも本書を買う価値はあるといえる。その後、角川ホラー文庫から「屑篭一杯の剃刀」という自選恐怖短編集が出たが、「ポール・ニザンを残して」は、そこにも収録されている。
とにかく、この短編集はめっけもんだった。いまだに強く印象に残っている。