本巻を含むシリーズ「ヨーロッパの中世」は、学士院会員から若手までの実力者が総出で最新の研究成果を披瀝するという有難い企画です。凡庸な「講座」とは一線を画す作りにしたのも正解でした。
著者池上氏の恪勤ぶりは驚異的で、次々と著作・翻訳をものされます。本巻においても、海外の諸研究を咀嚼したうえでの目配りは充分ですし、論述は明晰で間然するところがありません。「聖なる儀礼」と「俗なる儀礼」という軸のもと、政治・宗教・社会におけるその機能や意味が広範に辿られます。まことに手際のよい交通整理なのですが、精密機械を復元するかのような静的な分析や、やや端正にすぎるその文体が歴史の真の動態を捉えるにふさわしいかどうかは異論もありうるでしょう。
この分野においては絶対に無視できないカントーロヴィチやシュラムはあっさりとした扱いですが、これは禁欲なのか抑圧なのか。儀礼にせよ象徴にせよ、現代にあっても喫緊の主題なのですから、剣呑な領域に踏み込む度量もこの著者には求めたいところです。
なお、瑣末事ですが、池上先生、「すべからく」を「すべて」の意で使うのは誤用ですよ。