私は「アンインストール」で初めて石川さんという存在を知り、「アンインストール」に惹かれてこのアルバムを買いました。
とても美しい歌声と、そして「アンインストール」以外の曲の第一印象は、良く言えば「日本のポップスとして馴染みのある聴きやすい平易な」悪く言えば「平凡な」メロディラインというものでした。しかし心のどこかに何とも言えない違和感が残りました。そして何度も聴くうちに、その違和感の正体の一つに気がつき驚きました。
「ラブソングが一曲もない!?」
歌詞の解釈次第のところもありますが、はっきり単純に恋愛の歌だと言いきれない歌詞の曲ばかりです。というよりも歌詞の解釈が一筋縄ではいきません。例えば一曲目の「Vermillion」ですが、確かにVermillionという単語自体の意味は英和辞典を引けばわかりますが、それが「血」のイメージをも暗示しているというのは、よくよく歌詞を考えて聴いていなければ気づかれにくいところです。
そしてこの歌詞が極めて重く深いのです。生と死、切なさ、苦しさ、優しさ。深すぎて1回さらっと聴いた程度では歌詞の意味がわからず、そして歌詞カードと睨めっこして何度も聴き返すうちに、私はその精神世界の深みにはまってしまいました。変な喩えかもしれませんが、一般のラブソングを「わた菓子」に例えるならば、このアルバムの曲は、噛めば噛むほど味の出る「スルメ」のようなものです。一聴しただけでは良さがわからなかったのに、何度も聞けば聞くほど、心を捉えて離さなくなりました。
美しい歌声と聴きやすいメロディだけ考えれば、BGMとして聴くこともできるアルバムです。しかし歌詞は平易ではありません。いや、この歌詞だからこそ美しい歌声と平易なメロディラインでなければ、精神的に持ち堪えられないのかもしれません。そしてそういう意味では、このアルバムの中で唯一、一聴しただけでその凄さが伝わる独特のメロディやアレンジをもった「アンインストール」に関しては、もはや別世界に行っているようです。
そしてすべての曲において、一曲一曲の歌詞がわかればわかるほど、私はその高い芸術性に陶然とさせられました。一聴のみで人の心を掴んで売れるかどうかが問われる日本の音楽業界の中で、何度も聞き返さないとその良さがわからないような商業音楽離れした曲。そんな曲を日本の商業音楽の中で敢えて生み出し独自の活動をされている石川さんという存在に、私はこのアルバムを聴きながら畏敬の念を感じざるをえませんでした。