主人公を含む文芸部員たちの一人称は「僕」。女子高は、夫を娶らぬかぐや姫達の世界。女性しかいない中で生活するということことは、男性を意識しないでいいということであり、翻って女性らしくせずとも許されている。
「僕」と名乗り、格調高く文学的な会話をたしなむ主人公は、男子校の文芸部と交流したときに、決定的に女性である自分自身の現実に直面せざるを得ない。
彼女たちは、男になりたかったわけではない。成長して女性らしさを引き受けるためには、ニュートラルに育ててきた自己の傷つきを味わわなくてはならない。性化される、対象化されるという傷つきだ。成長して月に還ることは、悲しいばかりではないにしても切ない。
男性には男性のためらいがあるが、女性としてのアイデンティティ、セクシュアリティ、ジェンダーは、かくも息苦しいものであった。この小説は80年代を反映しているが、この息苦しさは今も消えたわけではないだろう。