「働くということ」に対して注がれる著者の透徹した眼差しは、究極的には「公正さ」に対する社会的合意をどのように構築するべきか、という問いに集約されていく。そしてその問いかけはグローバル化が進行する現代の「市場個人主義」の負の側面を鮮やかに浮かび上がらせる。
一つには「その仕事は社会的にどのように有用なのか」という問い。「国際貿易取引に必要な額の200倍以上もの投機的取引」が、時折巻き起こす世界的な金融危機等の負の側面を差し引いてなお余りある有意義なサービスを提供しているといえるのか。
また一つには「貪欲さはどの程度まで許容されるか」という問い。平均的給与所得者の1000倍もの所得を得る経営者たちの高給を説明する概念が単に「社会規範の変化」、つまり「貪欲を貪欲とけなすことをためらう傾向」でしかないこと。そしてこの傾向はこの四半世紀のあいだ加速することはあっても逆転する兆しは見えていない。
これらの問いはどれも答えの出せない問いである。だからこそ、常に問い続けなければならない問いなのだろう。