本書の原題は“
The White Man's Burden: Why the West's Efforts to Aid the RestHave Done So Much Ill and So Little Good”。
本書は「お金はあるのにそれを本当に必要としている、死にかけている貧しい子どもに
お金が届かない、という現実について書いたものだ。……貧しい人たちへの援助を
やめようと言っているのではなく、援助資金がきちんと貧しい人々に届くようにすべきだ
と言っているのだ」。
本書は、「自分が思っている解答にしたがって行動すれば解決できると考え」る
「プランナー」による「ビッグ・プラン」の改善を訴え、その処方箋として「試行錯誤を
繰り返して個々の問題に対する解決案を探」る「サーチャー」の活用を提唱する。
種々の統計や研究に基づいて、いかに過去の先進国による投資が無様な空振りに終わり、
それどころか場合によっては、被援助国を苦しめる結果に陥ったか、を極めて説得的に
論じた一冊。
ただし、本書の理論的骨子というのは、インセンティヴやら群集の叡智やら市場による
調整機能の優位性やら、昨今の(新古典派)経済学の議論の応用とも見える。計画経済の
惨めな破綻と自由主義的な市場競争の優越という使い古されたフレームを発展途上国への
投資に当てはめて分析してみたらかなり上手に説明がついた、というのが本書の機軸。
確かに「プランナー」対「サーチャー」をはじめ、筆者の提示するあまりに極端な
二項対立図式には少なからず違和感を覚える箇所もあるのだが、本書の主張の大半は
紛う方なき正論。一方的にサプライを押しつけるのではなく、相手国なりのニーズや
ウォンツを汲み取れ、というのは反論の仕様のない話だし、限られた資源の投入に際して
費用対効率を考えろ、というのもまた然り。論理性に加えて成功例の実証性つきで
インセンティヴの有効性を主張されたときに、さてどうやって抵抗しようか。
膨大な資料が参照されているだけで、ある面では同じスキームの繰り返し、とも見える。
各章の表題から気になったものを二つ三つつまみ読みするだけでも、おそらく筆者自身の
主張や思考パターンは過不足なく伝わるようには思う。
先に指摘した通り、理論的な枠組みに関して本書において目新しい点はないのかも
しれない。しかし、本書の告げ知らせる援助のセンセーショナルな実態を知るだけでも
――そして、それゆえにこそ筆者の議論は比類なき説得力を持ち得る――十二分に
このテキストは読むに値する。
一方的に配られた蚊帳を使おうとする人間はなかなかいない、それどころか実際は
手許にすら届きやしない。けれども、自らコストを割いて購入した蚊帳ならばモトを
取るべく進んで使う。インセンティヴをつければ、看護師は自ら営業を買って出る。
売れる、仕入れる、売れる、仕入れる、以下同文。こうして蚊帳は行き渡り、
マラリアのリスクはかなりの部分で回避されることとなる。あるいは、そうしたディールが
経済の底上げに寄与することもあるやもしれない。
往々にして、善意はシンプルに相手の幸福を実現しない。
だからといって、およそ善意というものが全き否定に屈するものではない。
そんな倫理のケーススタディを得るにもまたとない絶好の教材。