当事者たちにとっては思い出したくもない「事件」だろうが、野次馬として外野から見る限りこれほど面白い「事件」もない、というのが感想だ。あまりにも面白いので、地下鉄の目的駅を乗り過ごしてしまったほどだ。
『東日流(つがる)外三郡誌』という「偽書」については、耳にしたことはあるが、数多い偽書の一つだろうと、あまり真剣に捉えたことはなかった。
文庫版の表紙に書いてあるように、「戦後最大の「偽書」はいかにして生まれたのか」を執拗に追い続けた、岩手県生まれで青森県八戸市で育った、青森県の地方紙「東奥日報」の東北人記者が、「事件」終了後に求められた書き上げた、400ページ超にわたる一書である。東北人特有の粘り強さが、「石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞」受賞をもたらした。この間の、偽書否定派からの誹謗中傷も含めて、さぞかし大変なものだったろうと、苦労がしのばれる。
とはいえ、繰り返すが、この本はめちゃくちゃ面白い。さすが、本業は青森県にある米軍基地問題をライフワークとして追ってきた「事件記者」である。この本も、1992年の「事件発生」から2003年の「事件終結」に至るまでの、12年にわたる「事件」追跡の記録を、時系列でまとめたものだけに、「事件」のあらましすら知らなかった私のような読者にも、「事件」の全容が手にとってわかるように書かれており、十二分に堪能、いや納得させられた。ある意味で、上質のエンターテインメント小説のような趣きのあるノンフィクション作品に仕上がっている。
しかしそれにしても思うのは、関西生まれの私などには、けっしてうかがい知ることの出来ない、「三内丸山縄文遺跡」発見以前の、かつての東北人がもっていた屈折した思い、それと裏腹のプライドの高さである。それが、『東日流(つがる)外三郡誌』の作者に、この途方もない「偽書」を書かせたエネルギーになっていたようだ。最初はカネのために始めた「偽書」製作も、世の中に受け入れられているうちに、どんどんエスカレートしていって、本人も関係者にも収拾のつかない状況に突っ走ってしまったのが事の真相だろうか。
文庫版の解説を書いているノンフィクション作家の鎌田慧も青森県弘前市出身の「津軽人」であるが、鎌田慧は「狂騒華麗な津軽三味線やネブタ祭りに熱中し、天衣無縫に踊りまくる彼らの気質の一端を奇想天外の虚言を吐いて、快活に笑い飛ばすかれらである」(須藤儀門)というコトバを引用して「津軽人」の特性を説明している。板画作家・棟方志功を知っている人には奇異には聞こえないこの発言、『東日流(つがる)外三郡誌』の作者にもそのままあてはまるようだ。
面白うて やがて哀しき 『東日流(つがる)』かな
なんて句を詠みたくもなる作品である。
超々おすすめである。