今や、財政破綻でEUのお荷物化しているギリシアだが、歴史を遡ると文化・芸術の中心地であった。古代ギリシアの神々をモチーフにした彫像は現代の私たちを魅了する。しかしだ、<オリジナル>とされるギリシアの彫像の90%は古代ローマの職人たちが作製したものだとか。古代ローマではギリシアの古代彫刻がステータスシンボルとなっていたが、本物の作品の供給が途絶え、その穴をローマの職人が埋めていたという。時代が下り、かの有名なミケランジェロも贋作に関わったらしいし、ピカソも懇意な画商の求めに応じて自身の作品ではない絵にサインをしたことがあったらしい。こんなエピソードが随所に紹介されていて、今までほとんど知らなかった絵画流通の裏事情がよく分かる本だ。
作者の地道な調査で、稀代の詐欺師ジョン・ドゥリューの育った家庭環境やその巧みな話術と類まれな記憶力、英国紳士然としたアピアランスが説得力をもって迫ってくる。それに、まんまと騙されてしまう良識ある人々。この本を読んで、有名絵画はそれ自体の素晴らしさに加え、所有者の変遷を記録した「来歴」が重要な要素であることが分かる。完全なドキュメンタリー小説であるが、作家の構成と表現力がすばらしく、映画を見ているように、各場面がイメージできて、途中で本を閉じることができなくなった。
ジョン・ドゥリューを尋問した人たちの多くは、彼の性格は病的虚言癖の特徴に合致し、自分が想像して作り上げた自分像に「折りたたまれ」、感情的に「包み込まれている」と説明している。こうした人を称して日本の折り紙になぞらえて「オリガミスト」というとのこと。思わぬところで日本語が使われているのも驚きだった。つくづく人間は、良くも悪くも想像力の豊かな存在なのだと実感させられる。