「偶然」を見逃すな
――大発見や発明にセレンディピティが、関わっているのですか。
何かを探している時に、別のものが見つかったという経験がある人は多いと思います。それをただの偶然として片づけないで、能力として客観的に見直してみたのが、この本です。
理系の研究者が、新発見や発明の理由としてセレンディピティを挙げることがよくあります。
たんぱく質などの高分子解析技術でノーベル化学賞を受賞された田中耕一さんは、試料(サンプル)にグリセリンをこぼしてしまい、そのまま実験を続けたら高分子の質量が測定できたという偶然が受賞につながったそうです。受賞後の彼のコメントに「偶然に」と「間違えて」という言葉が入っているのを聞いて、これはセレンディピティだなと思いました。
ただの偶然でノーベル賞が取れるわけではありません。でも既成概念を打ち破る瞬間には、時に偶然の作用が重要になります。ところで私と田中さんは同じ高校なんですよ。これもセレンディピティの力かもしれません(笑)。
日本では、馴染みのない言葉とは思いますが、実はセレンディピティという能力は、欧米では既に研究の対象になっているし、小説や映画にも登場しています。最近、同名の米映画も日本で公開されましたし、今後は言葉自体の認知度も上がってくるでしょう。
――セレンディピティは、研究以外にビジネスや日常生活でも活用できるのでしょうか。
もちろんできます。企業の中では、会議などで(面白い提案があっても)「前例がないから」と、あっさり却下してしまうことが多いと思います。しかし、新規事業の立ち上げや画期的な商品を開発しようとする際には、常識や前例にとらわれていてはいけません。そんな場面でも、セレンディピティがあれば、常識や既成概念を打ち破るのに役立つはずです。
でも、セレンディピティを養うには、ブレーンストーミングや他の社員と知識やノウハウを共有できるナレッジマネジメントが大切になります。異なる文化を持つ人との交流は、セレンディピティに影響を与えるからです。
セレンディピティという言葉が最初に使われたのは、250年ほど前にイギリスの文筆家が書いた手紙の中ですが、「偶然何かを見つける不思議な力を大切にすれば、結婚相手でも見つかる」というニュアンスで使われました。科学者がよく使うからといって、あまり身構える必要はないんですよ。ビジネスや日常生活、スポーツ、芸術などいろんな分野で生かせる力なんです。
――どのようにすればセレンディピティは向上するんですか。
セレンディピティは後天的な能力で、努力や心がけ次第で鍛えることができます。
「偶然何かに気づく」可能性を高めることが大事になるわけです。私が考えている方法は、まず感動したり、気になったりした事象や現象に名前をつけることから始めます。名前をつければ記憶しやすくなるからです。
記憶しておけば、普段なら見過ごしてしまうような出来事に遭遇しても、自分が抱える問題と結びつけて考えることができるようになります。そんな繰り返しの中で、大きな発見や発明、やがては創造が生まれてくるのです。まずは偶然を楽しむことです。
( インタビュー 上木貴博)
(日経ビジネス 2002/11/25 Copyright2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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「セレンディピティ」というやや耳慣れない言葉の語源を紹介し、以降文献上に現れた事例を辿るところから本書は始まる。学問として成立させるには困難が予想されるであろうトピックに向かって、著者はいろいろな例を挙げ「セレンディピティとはどういうものか」を読者に伝えようとしてくれる。
ざっと概念を紹介して、例を挙げながら読者にテーマを手渡す、という点ではよく出来た内容だと感じた。文献を辿る記述は文学者のスタイルに近く、著者略歴を見て理系の方だったのに驚いたくらい。文献の選択も文系・理系双方からなされている。新書としてはよくまとまった良書。一読の価値はあります。
最初の3分の1は「セレンディピティ」という言葉の由来について。「セレンディップ(Serendip)の三人の王子」という物語に出てくる偶然についてを、イギリスの書簡王ホレス・ウォルポールが手紙の中で名詞化(Serendipity)したのが始まりなのだそうだ。他にも、この言葉が生まれた18世紀の社会状況や、ウォルポールの生い立ちについてなどが細やかに書かれている。これはこれでよく調べられているとは思うが、話が若干右往左往する感があり、「言葉の由来を知って何になる?」という感はあった。
だが、そうした感を払拭してあまりあるくらいによく書かれてあるのがそこから先の、セレンディピティを高めるための方法論だ。世界的な革命をもたらした発見の共通点をあげたり、トマス・クーンの唱えるパラダイムシフトとの関係やシンクロニシティという言葉とのちがいなどを述べている。さすがにセレンディピティ研究の先駆者が書いたものだけあり、これは発想に役立つと思うところが多かった(何か所も傍線を引いてしまった)。とくに「7 セレンディピティの向上」の章では、意図的にセレンディピティを高めるための一連のシステムを紹介している。
偶然という現象自体について述べた本はアーサー・ケストラーの『偶然の本質』などがあるが、この『偶然からものを見つけだす能力』はその偶然を人間の力によってうまく引き出して利用しようというものだ。「自分にできるかも」という期待感をもたせてくれる。また、偶然がともなうブレークスルーは、ともなわないものよりも大きな成果をもたらしうるそうだから、セレンディピティを高めたい気持ちは高まってくる。なんとも魅力ある話だった。
副題にある「セレンディピティの活かし方」という観点からすると、これもセレンディピティ、あれもセレンディピティです。と、著者の例を脈絡無くあげつらっているだけな感じがして(それが実例なのかもしれませんが)内容的な深みが感じられませんでした。結局どう生かすかは人それぞれということなのでしょう。
語源となった寓話「セレンディップの三王子」(邦訳が計画されている?)を読んで自分で考えたほうが良いかも。
難しい科学論からの解説でなく、その言葉の由来を歴史的に... 続きを読む
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