マツモトヨーコさんは、京都市立芸術大学大学院を修了された方で、芸大の美術科がまだ東山七条にあった頃の卒業生でした。比較的大学近くの大和大路団栗下がるあたりの町家の間貸しに済んでおられたこともあり、京都の街の普段姿を分かりやすい文章と素敵なイラストで綴っています。
『偏愛京都』というタイトル通り、マツモトさんの生活圏が描かれており、少し前の京都の姿をそこで生活していた者の目線で追い求めていました。観光客が表層的に感じ取るステレオタイプ的な京都とは一味違う京都がいきいきと語られています。
画家の視点は京都の街角の何げない景色にも目をとめて、それを取り上げています。感性が豊かであれば目に映る物も違って見えてくるという印象を持ちました。
町家暮らしにも触れており、夏は快適だが冬はかなり寒かった、との感想です。住みにくいから町家がどんどん無くなっていったわけで、それの維持に伴う苦労はなかなか「よそさん」には理解ができないことでもあるでしょう。
筆者の大学性の頃の生活状況や学食事情など、京都の大学生にとって自由な空気が流れていたのを感じられるエピソードも散りばめてありますので、それらを読んでも結構満足する内容だったと思います。
地蔵盆、カフェでない喫茶店、祇園祭、銭湯にて、出町柳、西陣今昔、今熊野などの項目で描かれている京都の姿は、ガイドブック的な京都の姿とは全く違う当たり前の京都でした。
96ページには、三条通御前にある創業大正11年の「天狗堂海野製パン所」を紹介しています。「B級グルメ的パン」というタイトルの通り、昔から同じ店構えのパン屋さんです。
ここを筆者が知っていたことも驚きですが、連載していた「朝日新聞」に取り上げた感覚を評価したいと思っています。