偶然に聞いたNHKラジオ第1放送で毎週日曜日の深夜10時15分から放送される短編の朗読番組「文芸館」で朝鮮人の子をいじめる物悲しい話が紹介された。
聴くやいなや、流麗な筆致に陶酔してしまい、うっかり題名を聴き忘れてしまった。原作を読みたくなり、翌日、NHKに出典を問い合わせると『信さん』に採録されている一遍の『遥い町』であった。
『遥い町』は福岡の炭鉱の町に貧しい朝鮮人の母と息子が偏見と差別に耐えながら、ひっそりと暮らしていた親子の物語だ。少年の名はヨン君と呼ばれていた。回りの少年たちから、いくどとなく殴るけるの理不尽な暴行を受けていた。
いじめがひとつの「遊び」にすらなっていた。それでも彼は涙をするだけで、決して抵抗しなかった。それは日本社会で暮らす彼らの知恵であったのだ。その彼と「私」との間に友情が芽生える。やがて、炭鉱の街から大阪へ引っ越す夕方、彼は、、、、。
それらの屈辱に耐えていた在日韓国・朝鮮人2世、3世の彼らは幸せな家庭を持って日本に暮らしているのであろうか、または彼らの祖国へ帰って、立派な地位について活躍しているのであろうか。
30数年前には頻繁にあった出来事であって、韓流ブーム時代の今では考えも及ばないであろう。
『信さん』は、父親の死と母親と離別した男の子の「信さん」が父親の兄夫婦に引き取られ、ほどなく夫婦の間に娘が生まれ、それが主人公の生き様に影を落とす話である。兄夫婦に疎まれて、札付きの不良になった彼が、「私」の「母」のたったひと言で立ち直り、その母に思慕の念を抱く。やがて私と彼との間に親愛の情が生まれる。そうして大人に成長した彼は、ひた向きに生きるのだが、、、。
著者の弱い立場の人間への優しい眼差しには敬服する。両作品とも一読すれば、小さな自分の悩みや苦しみなどは吹き飛び、元気が湧いてくる一冊だ。