本書は,依存性パーソナリティ障害をテーマとして,その患者の対人関係や主観的体験の特徴,成育史的特徴,治療の概説などを展望したものである。この比較的地味なパーソナリティ障害を一つだけ取り上げようという書物は,わが国には他に例がない。本書は,わが国のパーソナリティ障害の臨床をめぐる議論の発展に貢献するものだと思う。本書の上梓を歓迎したい。
著者は,特徴記述に基づいてパーソナリティ障害を捉えようとする立場に拠っている。この立場は,もっともオーソドックスで,他の立場からも賛同を得やすい。個々のパーソナリティ障害の類型は,他の類型との境界が不鮮明であり,要点を押さえた簡潔な記述が難しいものであるけれども,本書は,依存性パーソナリティ障害のバランスのとれた見取り図を描くことに成功している。また,依存性と日本人の心性を結びつけるような思弁的な議論には向かわずに,実証されている知見を重んじている点にも好感が持てる。
しかし,実証されない理論を「退場していただきたい」と述べているのは,厳しすぎると思う。実証ということは,それ自体がこの領域の現状では記述に依存しているものなので,実証されることのみが要求されるとなると,記述的立場しか残らないことになってしまう。しかし,実証されない理論によって救われる人も少なくないはずである。他に気づくところは,訳語の問題である。幾つか独自性を出そうとするあまり,不適切な訳語がある。(Conscientiousnessを意識性とするのは完全な誤訳)但し,そのほとんどに原語が示されており,大きな誤解は生じにくいように配慮はなされている。