リストを眺め内容を確認し、著者の手薄な分野がよく分かった。社会保障制度や個別の経済政策・政府規制の実証研究に関する本が殆どないからである。具体的に幾つか下に挙げてみたい。
明らかな誤りとしては、「手当では出生率は向上しない」が筆頭に挙げられる。出生率の高い先進国は家族政策予算が多い(除く米)。機会損失が大きいから子供を産まない、との著者の指摘も山田昌弘教授の調査により否定される。機会損失の大きい高所得女性労働者は4分の1以下の少数派に過ぎないからだ。
『少子社会日本−もうひとつの格差のゆくえ』シンガポール、スイス、アイルランド、フィンランドといった1人当たりGDPの高い小国がいかなる経済政策・戦略を取っているのかは今の日本にとって極めて重要である。それを知るための著書が『資本開国』しか掲載されていない。研究書ではないが『ブランド王国スイスの秘密』 等で補う必要がある。
『アイルランドを知れば日本がわかる』日本の社会保障制度関連書も鈴木亘教授の掲載はあるが相当に手薄だ。『大貧困社会』や『脱貧困の経済学』も加えたい。
『脱貧困の経済学ー日本はまだ変えられる』また、北欧のフレキシキュリティ(積極的雇用政策)と、世界金融危機でも盤石だったカナダの金融システムと規制を分析した著作がリストにあると良かったのだが、理論原理主義的傾向の強い著者はその方面には関心が薄いのかもしれない。
注意点としては著者のブログとの重複が多いので、日参で読んでいる者にとっては既読の記載が多いということである。しかしながら読み返してみるとまた新たな発見を期待できる点も評価したい。日本のネット上のレビューは無意味に賞揚するものが多い、との指摘には爆笑してしまった。
追記:2010年春から著者は漸く社会保障にも言及し始めた。しかし「日本の社会保障の殆どが高齢者向け」「貧しい若者から豊かな高齢者に所得移転している」と最初に指摘したのは飯田泰之准教授である。池田教授の発言は2年以上遅い。