「作詞に方程式はない。絶対にない。あったとすれば、それはもう古くて使えない」。
かつて膨大な数のヒット曲を飛ばし続けた阿久悠が、作詞について書いた本。ただしこの本は、君にも歌詞が作れるという安易な本ではない。時代の空気や歌手の特性を熟慮し、多忙を極めるルーチンワークの中で仕事としてたくさんの作品を生み出すのがプロであり、著者が自身を振り返りながら、その実態や、必要な発想法、姿勢、歩みを紹介しているものである。
オリジナルの出版は1970年代中盤のようだからずいぶん古い。当然、今のJ-POPの世界とはかなり違うし、若い人にはそれほど馴染みのない歌の話も含まれている。
「歌謡曲の詞には、常に新しいということが要求される」「日本は、歌の見本市である。どんな歌でも書けるのだ」。
作詞技法に関する説明は、主に「第4章こうすれば詩が書ける」で行われている。四行詩などの約束事、たくさんの引き出しを作る為のトレーニング法、テーマや素材のとり方が簡単に述べられている。
個人的に面白かったのは、「第3章ヒットはこうして生まれた」。森山加代子をカムバックさせるために、シミル歌ではなくタタク歌を意識した『白い蝶のサンバ』。1年前に作った歌の歌詞を変えて成功した『また逢う日まで』。和田アキ子に対するスケールの大きなイメージをあえて抑えた歌詞にすることで大ヒットした『笑って許して』。逆に女性にどこまで大きな歌が歌えるかに挑戦した『あの鐘を鳴らすのはあなた』等のエピソードが並ぶ。
別章における「詞は求められていない。求められているのは人材である」というのも、本書を後半まで読むと、なるほど、と思える。
演出家の鴨下信一が解説を書いている。「(終戦直後は何もなかったが)溢れかえるほどあったものがある。映画と音楽だ」と、阿久悠世代が生まれた背景について語っているのも印象に残った。