内容紹介
東洋美術と考古学の研究誌。斯界の泰斗から気鋭の研究者、さらには若き学研の徒まで、毎号多彩な執筆陣が筆を振るう。
◇「唐の長安の西内と東内および日本の平城宮について」
(外村中・ヴュルツブルク大学漢学系外国人専任講師)
唐長安城の構成について、とくに西内(太極宮)と東内(大明宮)の範囲を文献学の立場から確定する試み。従来、唐長安城研究の基礎文献とされてきた清の徐松『唐両京城坊攷』の「宮城東西四里」は誤りとする記載は誤りで、唐の『両京新記』、宋の『長安志』など、時代の先行する諸文献に述べられた「宮城」は、西内のことを指し、東宮は西内の中に含まれたとする。唐長安の太極殿は、天子の儀式をおこなう場と政務を執る場とを兼備し、魏・晋―南朝宋の太極殿が古代礼制の路寝に相当するのとは異なり、三朝制の中朝に相当するものであったと考える。また、東内苑は東内の外東にあって、東内の西城壁は西内苑東壁と共通で興安門の西に位置したなどの点を文献を駆使しながら詳細に論じ、さらに平城宮の制度との関連についても言及している。
◇「縄張り調査と山寺研究」
(藤岡英礼・財団法人栗東市文化体育振興事業団・文化財調査課主査)
近年の山寺研究では、地域ごとの悉皆調査が不可欠で、ここで提起されている「縄張り図」の応用は、その際の力な武器となるものである。そうした縄張り調査時の道具類から、方法までを具体的な事例とともに紹介する。発掘調査を実施する場合は大縮尺地形図の作成が前提となるが、先立つ資料集成と比較検討・類型化、そして本論文が具体例に即して展開した空間構造や寺内組織・寺院勢力論に至るまで、「縄張り図」の重要性と秘められた可能性を説いている。
◇〔新指定重要文化財紹介〕
「滋賀・千手院木造千手観音立像(御代仏)について」
(秀平文忠・長浜市教育委員会文化財保護センター主幹)
昨年度に重要文化財に指定された長浜市千手院の千手観音立像についての調査結果の報告と、そこに考察を加えた論(図像は本年四月末から五月初めまで東京国立博物館での新指定文化財展に出陳されていた)。湖北地域の平安時代初期の木彫像には肉取りや衣文に奈良時代の木心乾漆像の表現を思わせるものが多く、本像もそれに連なるものとして、これらの中での位置づけを試み、九世紀後半の造立と考察する。そして表現の似た広隆寺不空羂索観音立像を考慮に入れて、奈良から京都を経て湖北に至る共通の様式の系譜を想定し、本像を含む、上半身裸形で別材の衣をつけたかとも思われる湖北の一群の像にも同様の系譜を辿れるか、との問題提起にも及んでいる。