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5つ星のうち 5.0
30年代幻の傾向映画が甦る!, 2010/11/16
レビュー対象商品: 何が彼女をそうさせたか クリティカル・エディション [DVD] (DVD)
大不況にあえぐ日本。経済的に貧窮し、少女すみ子(高津慶子)は、父親
の手紙を携えて、伯父一家の世話を受けることになる。しかし、伯父一家
も貧しい上に大所帯で、すみ子は肩身の狭い日々を送る。そして、ついに
は、すみ子は曲芸団に売り払われてしまう。サディスティックな団長の下
での奴隷のような生活。劣悪な労働条件下で、団員たちの怒りも頂点に
達し、団長を襲って逃げ出してしまう。それに乗じて、すみ子も逃げ出し、
新しい人生を歩み出そうとするが、それはさらなる転落への幕開けでも
あった…。
藤森成吉の戯曲を基に、帝国キネマ(帝キネ)が映画化したプロレタリア的、
左翼的主題を扱った、いわゆる「傾向映画」の大ヒット作。当時としては異
例の5週間興行という快挙を成し遂げたそうだ。30年の劇場公開後、35mm
ネガ、ポジとも失われたと考えられていたが、帝キネ社長の孫にあたる山
川暉雄氏の執念とも言える探索の末、90年代前半に、ロシアのフィルム・
アーカイヴ、ゴスフィルモフォンドに所蔵されていた上映ポジ(前半と後半
欠落/ロシア語インタータイトル)を譲り受け、映画関係者の協力で復元さ
れた版。
傾向映画ではあるが、そういった思想的な部分を差し引いても、作品とし
て実に良く出来ている。監督の鈴木重吉は、国際志向が強く、当時の海
外作品を熱心に研究していただけあって、安いメロドラマに堕しかねない
「可哀想な少女」の話を、端正な構図、斬新なキャメラ・アングル、トリッキ
ーなキャメラ・ワーク、リズミカルな編集…などのモダンさ溢れる練達の演
出で、観る者をグイグイと物語に引き入れる。主演の高津慶子の可憐で
はかなげな美しさもいい。頻繁に捉えられる、涙を流した彼女の美しい顔
のショットが、このあまりに悲しい物語を象徴しているようで、胸に突き刺
さる。
もちろん、正直に言えば、オリジナルの形で、この伝説の作品に触れられ
ないのは、映画ファンとして悔しくもある。とりわけ、それまで社会の矛盾、
理不尽に忍従していたすみ子の怒りが噴出して、教会に放火するクライ
マックス(特典映像に、聖書を高く手に掲げたすみ子のスチールが収録さ
れている!)が失われているのは残念だ。しかし、脚本から丁寧に採録さ
れた字幕の補足で、その場面を想像することは出来る。クライマックスは、
観る者各自に想像する楽しみが残されたと肯定的に考えるべきだろう。
本DVDは、1997年の東京国際映画祭で、一般初公開された復元版プリ
ントからテレシネされたもの。今回のDVD化に当たり、更なるレストアが
されたわけではなさそうだが、30年の作品ということを考えれば(それも、
一度は失われたと思われた)、素晴らしい画質と言わない訳にはいかない
だろう。サイレント音楽の大家、ギュンター・A・ブーフバルト氏による楽曲
も良好。さらに、鈴木監督の貴重な教育映画の短編『闇の手品』(約35分)
も収録され、詳細な解説のリーフレットも同梱されているとなれば、もはや
文句の付けようがない。
限られた特殊上映でしか観ることが出来なかった本作を、ごく普通の映画
ファンに向けて届けてくれた紀伊國屋さんの素晴らしい企画に心から感謝
したい。