内容紹介
私は、体臭の治療という、いささか特殊な分野の専門医として、多くの患者さんの手術やカウンセリングに長く従事してきました。
その長年の経験からつくづく感じるのは、自分の体のニオイで悩んで来院される患者さんの「心の痛み」の大きさです。
大半の患者さんは、何カ月も、時には何年も一人で悩み抜き、その果てに意を決して来院します。受診に至るまでの心のつらさは、察するにあまりあります。
にもかかわらず、体臭で悩んだことのない人には、そのつらさはとうてい理解できません。たとえば、体臭で悩んでいる人が最初にその悩みを打ち明けるとき ――たいていは親や近しい身内に対してでしょう――打ち明けた相手の反応は、十中八九、次のようなものです。
「気のせいじゃないの? 全然クサくないよ」
「体臭くらいでクヨクヨ悩むことないわよ」
「なにをバカなことを言ってるんだ」
このような反応は、体臭で悩んだことのない人にはしごく当然であり、「たかが体臭」でしかないのですが、意を決して自分の悩みを打ち明けた患者さんにとっては、“自分の体臭が原因で周囲の人から嫌われ、避けられている”……、そんな拒絶感をすでに抱いている上に、今度は“自分の悩みを誰も理解してくれない”という疎外感が加わり、二重の苦しみを味わうことになります。
問題はこれだけにとどまりません。
患者さんの不安感をさらに増大させるのは、自分の悩みをどんな病院に行って相談したらよいかが皆目わからない、ということです。
実際、体臭の治療を専門にしているのは、我が国で、私の医院を含めてほんの数施設に過ぎません。ましてや、手術治療だけではなく「心のケア」まで行っている病院となると、皆無に等しいのです。
それは一つには、体臭恐怖の治療が、非常に広い守備範囲を要求されるためです。
一口に体臭といっても、その様態は様々です。明らかなワキガ体質の患者さんには当然手術治療が最も効果的ですし、一方、本当はワキガではないのにそう思いこんで悩んでいる「自己臭」の患者さんには、心のケアこそが重要になってきます。このようにまったく異なる様態の患者さんに対処できなければ、体臭の正しい治療相談とはいえません。そしてそのためには、熟練した外科的手技と精神医学的知識・配慮が必要になります。つまり、体臭恐怖の治療者は、外科医であると同時にカウンセラーでもあることを要求されるのです。
ですから、体臭の医療分野では、患者さんの全体像を十分把握した上で、この二つのアプローチを、時と場合によって使い分けられる医師が必要なのです。私は、そうした医師であるために、「心療外科」という新たな医療分野を築きあげようと努力してきました。
「心療外科」は私の造語です。読んで字のごとく、“外科的治療(形成外科や皮膚科的手術など)を中心に据えつつ、患者さんの内面を重視して精神医学的アプローチをする臨床医学の分野”を意味して名づけました。正しい体臭恐怖の治療は、この心療外科的アプローチによってしかありえない、そう私は考え、実践しています。
内容(「BOOK」データベースより)
登校拒否や引きこもりの原因ともなる「体臭恐怖」。長年、悩める患者と向き合い続けた「心療外科医」が語るその原因と背景、そして正しい解決法。