簡潔かつ冷静に綴られた体脱日記が読み物として面白い。しかし、訳者は「著者はプログラマーなだけあって、科学的」と評価するが、数学的な人は、現実から遊離(体外離脱?)した観念を追う傾向を孕んでいるかも知れない。実際、著者は、体脱体験が夢でない証拠として「夢ではあり得ない現実感を体験した」という主観的な感覚を挙げるような人。体脱体験に伴って得た超能力にしても、主観的解釈を完全に排した証拠は提示されない。彼がレストランで「ナプキンを取って」と念じたのが父に伝わったという話も、彼が無意識にナプキンを見たのを、父親が察知したのでは?
論理的であることは、実証的であることの必要条件だとしても、充分条件ではない。こういったテーマでは、論理性に加え、生理学的な知識も必要。例えば『脳と心の地形図』によると、体中の様々な知覚を総合し、手足の位置を知らせる‘固有知覚’が、瞑想状態などで低下すると、体が浮いたような感覚になるらしく、これが体脱体験の正体だという解釈。
とは言え本書は、体脱の為のエクササイズが具体的かつ懇切丁寧に解説されている点が貴重。例えば、重力感覚から離れる為のイメージ・テクニックも、船の先端に立ち、波に上下に揺られている、とか、宙に浮かんだ物体の上下運動、など複数紹介。呼吸のコツや、体調との関係、アルコールは飲まない方が良い、といったアドバイス、「体脱時に鏡を見ると何が見えますか」といった質問への回答、月の周期と体脱成功率が関係しているという説の否定、有名なロバート・モンローは体を北向きにすることを勧めているが、自分はその方角が最も成功率が低い…、といった体験談、等々、読者の様々な疑問に冷静に答える姿勢は好印象。彼自身の具体的な体験が詳しく書かれているおかげで、本書を読むこと自体、イメージ・トレーニングになっている。