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訳者あとがきで柴田元幸氏も書いているが、上のような要約を見て、
読んでみようと思う人がいる一方で、読みたくないと思う人も、
きっと多いだろう。ほかならぬ私自身がそうだ。
要約を読めば、この本の中身は容易に想像がついてしまう、と思う。
たぶん、ある人は孤独や絶望の中で死んでいき、
ある人は死に面して、閉ざしていた心を開き、
ある人は穏やかに命を終えるのだろうと。
そしてそんな想像は、あながち外れてはいない。
しかし本書の内容を漠然と、そしてステレオタイプに想像したとき、
決定的に欠けているものがある。
それは体の感覚だ。
彼ら一人一人の、生きている体だ。
もう思い通りに動かせない体。食べものを受けつけなくなり、
だんだん空っぽになっていく体。
そこに最後に残されたもの。残していったもの。
<私>はドラマチックな物語、感動的な物語を語るのではない。
ただ彼らの生活、その営みを綴るのだ。
そこには、並みの想像では決して及ばない力がある。
家族や愛情や希望などという、一見陳腐にも思える言葉が、まるで喉が乾いた時に飲むミネラルウォーターのように心にストレートに訴えかけて来る。 無味乾燥な毎日、ともすれば自分が何者か解らなく成る世の中に飽き飽きした人たちに、この物語は、生きていることは奇跡的なことかもしれないと教えてくれる。 十一個の宝石のような、素敵な本です。
11の話を収めた連作短編集。
主人公の女性は、末期のエイズ患者をホームケアする仕事に就いています。あと何ヶ月生きられるのか、死を宣告されたに等しい患者と接する日々。彼らと言葉を交わすなかで、彼らの肉体的、精神的な苦痛に触れ、それを少しでもやわらげようとする「私」。
余計な虚飾を一切省き、主人公の「私」と彼ら重症の患者との心の交流を淡々と綴っていく文章。しかしそこに、深い祈りの感情が満ちていて、それがまっすぐに読み手に伝わり、心に訴えかけるところ。その表現力、描写力が本当に素晴らしかった。
この世の中のいろんなものを愛おしそうに見つめている彼女。「君、僕がいなくなったら寂しい?」と問う彼。家族との素敵な思い出を語る彼女。残された生の時間はほんのわずかだと知っている彼らの言葉に耳を傾けているうちに、どうしようもなく切ない思いがこみ上げてきて堪らなくなりました。
今年、これまで読んできた小説のベスト・オブ・ベスト。
深く、強く胸に刻まれた小説でした。
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