他の某通販サイトなどを見ても明らかだが、佐渡裕には、批判の「ひ」にもならない、悪口が集まる傾向がある。その理由は知る由もない。この映像作品は、NHKとEuroartsによるものであり、或いは、Euroartsからリージョンフリーで出てくる可能性もあると考えている。
内容だが、高評価を与えて当然と思える。その第一の理由は、武満徹のFrom Me Flows What You Call Timeが収録されていることである。これほど視覚化して効果のある楽曲も少ないし、サラウンドで聴くべき作品だからである。また、音楽としても、武満の作品群の中では、最も理解しやすく、演奏効果も高い。CDでは、アメリカの団体による優れた録音がSonyから出ていたので、今でも入手可能かもしれない。この作品は、もともとネクサスというカナダの打楽器グループを想定して書かれたものだが、実演で演奏される機会は決して多いとは言えない。私の記憶では、90年代の後半にユカ・ペッカ・サラステがトロント響で演奏したはずである。このDVDがなぜ重要かと言うと、NHK交響楽団は、武満没後10年の演奏会で、この作品をアシュケナージとやっており、私もそれを会場で聴いたのだが、首を長くして待っているにも関わらず、日本のレーベルから、あの演奏が出てくる気配はピクリともないからである。会場には、池辺晋一郎や、没する直前の岩城宏之の姿も見えた。武満と親交のあった、谷川俊太郎もいた。この作品をやるたびに、いちいちネクサスにお出ましいただくわけにはいかないので、大抵その楽団の打楽器奏者が5色の服を着て登場し、ステージから天井には五色の帯がかけられ、五色の帯を揺らすと天井部分にあるサウンドチャイムが鳴るような仕組みになっている。武満の作品の中では、単独で演奏時間30分と長い部類であるのも注目に値するが、全く飽きることのない30分である。出だしのフルートソロはエマニュエル・パユだが、ストラヴィンスキーの『春の祭典』になりそうでならず、独特の武満ワールドの幕開けとなる。カーネギーホールの委嘱によるものであり、他の委嘱作品にはルチアーノ・べリオの『シンフォニア』があったと記憶している。ベルリンフィルデビューにあたって、この曲を選んだのが佐渡自身であるならば、まずそのことを深く感謝したい。また、これを映像として残したNHKとEuroartsも賞賛に値する。N響がアシュケナージとこの曲をやった時、大変不満足だったのは、曲の終結部で、サウンドチャイムが鳴り響くのだが、その後で、アシュケナージが、「はいはい、終わりました」という風に、さっさと指揮棒をおろしてしまって、余韻もへったくれもなかったことである。あの時は、「それはないだろう」と思ったが、この演奏での佐渡はそのあたりをちゃんと心得ており、終わった後、祈るようなポーズで数十秒の静粛を作っている。大震災のあとの演奏でもあったし、曲の性格から考えて、当然の行為だと思う。
ショスタコーヴィチの5番も、ベルリンフィルの威力が十全に発揮された見事な演奏であるし、佐渡はこの曲をわりと取り上げているから、掌中には入っており、この程度は当たり前だと思う(暗譜で指揮してはいないが)。師のバーンスタイン流の劇性もあれば、抒情的な部分での繊細さも見事だ。コーダは、バーンスタインやムラヴィンスキー流の疾走感はないが、水準以上の演奏であり、これを聴いて怒りだす人は少ないだろう。ショスタコーヴィチの5番のコーダの解決和音の部分は、やはり佐渡の絵で締めくくられるべきだと思うが、大太鼓奏者のアップで終わっているのが残念である。が、しかし、まあ大きな問題とは言えない。総じて優れた映像作品であり、ショスタコーヴィチの5番は、他にも録音や映像はあるから、これでなくても良いという人もいるだろうが、少なくとも武満作品だけでこのDVD・BlueRayを入手する価値は十分になる。なお、ステージに近い客席にパーヴォ・ヤルヴィに似た顔が見えるのだが、本人であろうか。
いずれにせよ、汗かきの佐渡だが、今回も例外ではなく、まさに「熱演」というに相応しい。会場はほぼ満員。日本から駆け付けたか、ベルリン在住か、日本人と思しき姿もかなり見られ、中には着物姿の女性も見られる。茂木健一郎そっくりの顔も見えるのだが、他人の空似と言うやつか。特典の、佐渡のインタヴューも、彼のプロずれしない正直さが出ていて好感が持てる。