新潟県巻町・岐阜県御嵩町・沖縄県(名護市)・兵庫県神戸市・徳島県徳島市等での取材をもとに,住民投票の実際を伝えている.日本初の住民投票条例が制定されたのは高知県窪川町だが,条例案を発案した町会議員は,アメリカでの留学経験にヒントを得た一介の自営業者だった.また,本書に依ると,我が国初の住民投票が実施された新潟県巻町の行動は,その後の他の地域での住民投票運動に大きな活力を与えたという.これらの事実は,我が国における草の根民主主義の成長を示すわけで,民主政治の観点から非常に喜ばしい.
議会政治・代表民主制の形骸化をカバー乃至サポートする選択肢として,住民投票は非常に魅力的だが,制度的・理論的な,問題点・疑問点を幾つか含む.まず,現行法制度では住民投票の結果に法的拘束力を持たせることができない.為政者が結果を無視することも法的には可能だ.また住民投票は「マルかバツか」という単純な意思表明以外は制度技術的に中々難しい.それと関連するが,投票結果について,個々の有権者の背後事情を見誤ると,思いも依らぬ政治的結論を引き起こしたり,為政者側に政治的に利用される恐れもある.たとえば精神病院や下水処理施設などの建設問題に住民投票を使うと,一部の地域に「エゴ」を押しつける結果になってしまうこともあるだろう.「多数派の専制」という点で問題だし人権という点でも問題である.この辺りをどう克服するか.
要するに,住民投票という制度が手放しで素晴らしいということではなく,問題なのは使われ方だ.どちらにしろ住民投票の政治的インパクトは強い.住民投票は,憲法学者樋口陽一の言を真似れば「伝家の宝刀」,アメリカの法哲学者R・ドウゥォーキンの言を真似れば「トランプの切り札」なのだ.そのような住民投票のメリット・デメリットを我々市民が考えるための材料として,本書は恰好の一冊.