本書は,地名の由来について述べた書物ではなく,住所表示のシステムについて述べたものである。前半は,地番と番地について,地域や国によるシステムの違いについて,紹介されている。後半は,昭和37年に施行された住居表示法を説明したうえで,この国家政策を杓子定規で適用し,伝統ある地名(おもに小字)を消滅させ,背割りの町を街区で分けることにより,伝統あるコミュニティを崩壊させた問題を指摘している。そして,地名を「無形文化財」と表現する筆者は,数字の羅列ではなく,伝統ある小字を活用して住所表記することを提案している。そうしたほうが分かりやすいし,覚えやすい,そして何よりも,土地への愛着と歴史への敬意を伝えていくことができるというのである。
この本を読むと,身近な住所表示がいかに複雑な諸事情の産物であるかを感じることができる。そして,住所が単なる記号ではなく,そこで実際に生活している人々の諸事情,精神,人と人のつながりを反映したものであるということを感じることができる。それを知らずしての「合理性」は,結果的に非合理であることを理解できる。