筒井さんの普段のドタバタがすっかり影を潜めた物哀しい作品が大半です。しかしそのシリカル性は健在で、途中までの展開は星新一さんのショートショートと共通する部分は多いのですが、オチの肩透かし具合とか、ブラックユーモアの具合はまさに普段の筒井さんです。「碧い底」、「ベルト・ウェーの女」、「ヒッピー」、「走る男」などは特にその色が強くお気に入りです。
一方、方々で評価の高い「佇むひと」と「母子像」はやはり別格です。「佇むひと」はいつもの平易な文章ながらいきなり異世界に引きずり込まれるところが好きです。「母子像」は説明不能の悪夢が凝縮された極上の短編です。文章の端々に含まれた悪意や冷たさがシュルレアリスム色を高めます。